2020年9月23日水曜日

McGill大フランス語インテンシブコース


カナダのケベック州、モントリオールは歴史的にフランス語系文化と英語系文化が共存する独特の文化圏です。元々フランス系移民が作った街ですが、米国独立後、その独立を嫌った英国系移民がカナダに移民しました。モントリオール島の中心にあるロワヤル山を中心として、大まかに東側はフランス語圏、西側は英語圏に住民は分かれています。ただ、街全体、英仏どちらの言語でも通じます。


Mcgill大学はカナダ、モントリオールにある複数の大学の内、英語圏の大学です。米国のアイビーリーグとも肩を並べる歴史ある優秀校です。この語学クラスはそのConrinuing Studies部門に属するコースで、フランス語と英語の集中クラスがあります。



フランス語の集中クラスはレベル1から5までのコースがあり、レベル5まで修了すると、サーティフィケイトと呼ばれる修了証が得られ、これがフランス本国が規定するDELF B2相当とケベック州では認められるため、多くの移民希望者がこのコースを選択します。職能移民申請のためにはケベック州ではフランス語が中上級であることの証明が必要だからです。各レベルの授業料は約2300カナダドルかかります。以下の内容は2017年内に全てのレベルを修了した経験談です。


コース申込後、コース開始の前の週あたりにプレイスメントテストと呼ばれる能力確認テストが行われます。この結果次第でどのレベルに入れるかが決まります。その日程が直前まで明確でないので、日本から来られる場合は早めに問い合わせをした方が良いでしょう。テストは筆記と面接です。比較的短時間で終わるもので、結果はクラス開始当日に行ってみないと分かりません。


一つのレベルは6週間、9時から3時までのフルタイムです。途中1時間の昼食時間を含みます。私は全くの知識ゼロからだったので、レベル1から5まで全てを受講しました。


6週間の内、5週目に殆どのテストが行われます。どのレベルでもクラスメイト2,3人と共同作業を必要とするプレゼンテーションがあり、筆記、オーラル面接の試験も行われます。先生方の評価は、比較的努力部分も認めてくれるものではあるので、なんとか授業についていって、こうした課題をきちんとこなせば各レベルを修了出来ないケースは稀です。フランス語の場合各レベルのクラスは1クラスだけで、生徒数は20人弱でした。私が参加した各レベルで脱落した生徒はおよそ1人ずつで、そもそもやる気が無くて欠席が多いなどの問題がある生徒だけでした。参加している生徒達の出身国や年齢は様々で、中国や中南米からの学生が比較的多かった印象があります。日本人は殆どおらず、全レベル中で、2人程にお会いしました。


各レベルの文法等の積み上げ方はとても良く構成されていたと思います。

・レベル1では現在形のみ、自己紹介が出来る事が目的であり、出身国や職種、趣味、時間、挨拶など自己紹介が出来ることが目的でした。

・レベル2では過去完了形が加わりました。自国の食文化を説明できる事がテーマになっていて、食物、住まいなどの語彙を始め、生活に必要な知識を身に着けました。このレベルでは授業内の説明も全てフランス語で、他国語をクラス内で話すことも禁じられました。

・レベル3では半過去や未来形等の文法が加わりましたが、それにもまして先生達の話すスピードが一気に上がり、生徒の理解を待つよりは、耳を慣れさせるためにマシンガントークするモードになっていました。レベルのテーマは議論する事で、授業内のエクササイズでもテーマを与えられて、それについて議論したり意見を言うことを求められました。

・レベル4では仮定法や代名詞などの複雑な文法が更に加わりました。レベルのテーマとしてはニュース等に使われる表現に慣れる事と 記事などの論理建てた文章の書き方を学ぶという目的があり、接続詞他、動詞の全ての活用形態も習い、レベル3以上の議論能力が求められました。

・レベル5では芸術的表現に関する用語と文法がテーマで、感情の表現他、全てのレベルを総括する文法が含まれました。プレゼンでは流暢に話すことが課題となり、丸暗記の棒読み発表は否定されました。


授業内では習った語彙や文法を話して練習するエクササイズやゲームが盛り沢山で、そうした内容にとにかくついていく必要があります。上記の通り、各レベルでは5週目に2,3人の生徒と共同でプレゼンテーションをすることが求められ、その準備のために協力して作業することが必要になります。例えばレベル4では一つのトピックに対して賛成派と反対派に分かれて論点を示して模擬議論をしたり、レベル5では何らかの舞台芸術やコンサートを聞きに行って、その内容について発表するといった事です。レベル3以上ではメモを読む様な発表の仕方は減点となるので、準備した内容は覚えて臨まなければなりません。


各レベルの3,4週目の金曜日には授業時間内にクラス全体で出かけるイベントが企画され、ジャンタロン青果市場、蝋人形館、旧市街散策、メープルシロップ農場などを訪問してモントリオールやケベック州の文化や歴史にふれることが出来るようになっていました。


教師陣はフランス人やケベック人だけでなく、ポーランドやチュニジア出身の先生もおられました。基本は公用語としてのフランスのフランス語を学ぶのですが、上記の様にケベック州に移民して生きていく事を目的とした生徒が多いので、ケベックの方言で話す教師も含まれており、発音の違いやケベック独特の表現なども学ぶことが出来るようになっています。


授業内容も教師陣も素晴らしかったのですが、なんと言っても参加している生徒達の意欲が高かったのが最も素晴らしい事でした。授業料が高い分、そして移民のために確実にフランス語が話せるようにならなければならないので皆真剣なのです。私はケベック州政府が財政支援する無料のフランス語クラスにも参加した経験がありますが、そちらでは参加者の半分が2回目から来なくなり、教師の意欲も低く、体系建てた授業内容も無く、何かが身につくものではありませんでした。(これはあくまでモントリオール島内のある中上級レベルの体験です、他がもっと充実したものであることを願います)


毎年12月にはMcGill Got Talentと称するイベントが行われ、英仏両コースの生徒達が様々な芸を披露します。私はふと思いついてしまって、フランス語を学んできた過程を、小さなシャボン玉から、段々複雑なシャボン玉や大きなシャボン玉を使って、能力と夢が広がったよ、という小話にしました。後から見ると間違いだらけで恥ずかしい仕上がりですが、良い思い出になりました。


このインテンシブコースのレベル5を修了した人は、年に2回、5月と10月に行われるマギル大学全体の卒業式に参加することが出来ます。時期に応じて5月か10月のどちらかに参加することになるわけです。映画などでよく見る、黒いローブに四角い帽子をかぶって、壇上でひとりひとり名前を読み上げられ、学部長にポンと肩を叩かれて卒業を証明されます。世界中から集まった学生達とその家族の歓声が渦巻く、筆舌に尽くしがたいとても感動的な体験でした。


レベル1から5まで全てを一緒に経験した友人が何人か出来ましたが、授業の経験、そして移民を目指す事も含めた戦友、の様な感じでその後も交友が続いています。


総じて、身についたフランス語も、クラスを通じて得た経験も私にとってとても満足するものでした。このインテンシブコースを強くおすすめします。COVID下でクラスはまだオンラインになっている様ですが、早く状況が改善することを切に願います。